ゲームレビュー『なないろリンカネーション』
作品概要
制作 | シルキーズプラス WASABI |
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原画 | すめらぎ琥珀 |
企画・シナリオ | かずきふみ |
音楽 | 未来 , Croissant |
個人的評価
総合点数 | 87点 |
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プレイ時間 | 16時間くらい |
面白くなってくる時間 | 最初から(設定そのものがめっちゃ好きだから) |
退屈しましたか? | いいえ |
おかずにどうか? | 絵はめっちゃ綺麗だけど抜くのは何か違う。 |
お気に入りキャラ | 滝川琴莉 |
あらすじ(勝手に要約)
大学三年の夏休み。加賀美 真は亡くなった祖父の家を相続し、そこで一人暮らしを始める。しかし真は誰もいないはずの家で座敷童を名乗る少女、そして自身を鬼と称する女性と出会う。
引用元:なないろリンカネーション
彼女らは鏡に映らず、普通の人には見えない存在だった。二人の口から真は、自分が持つ霊視の力、そして祖父から受け継いだある使命について知らされる。
鬼を従え、町に彷徨う霊魂を現世から解き放ち、常世へ送ること。それが代々受け継がれ、祖父から真に託された加賀美家の「お役目」であった。
お役目の中で真は、滝川琴莉という一人の少女と出会う。琴莉は霊視の力を持ち、真の鬼を見ることができた。彼女の飼い犬の霊を成仏させたことをきっかけに、琴莉は真の助手としてお役目に協力するようになる。
引用元:なないろリンカネーション
新たに琴莉を加え、騒がしくも楽しい日々を送っていた真たちの元にある日、町で起こっている連続行方不明事件の情報が届く。事件の調査をする中で真は、人々の悪意、思い、悲しみに触れ、そして過酷な現実と向き合っていく。
総評
幸せとは曖昧な定義である。
今、私は嬉しい、今、私は悲しい。
現在の感情を答えることは容易い。感情は刹那的で、継続性を必要としないからだ。
しかし「あなたは幸せですか?」そんな風に尋ねられると途端に答えに窮する。なぜなら幸せとは人生という日々の集積によって導かれるものであるからだ。喜びも悲しみも永遠には続かない。禍福は糾える縄の如く、人は時に幸福を感じ不幸を感じる。総じて人生が幸せであるか否かそれを断ずることは容易ではない。
では「あなたは幸せでしたか?」そんな問いならどうだろう。
一生の終わり、最期の瞬間に「ああ、私は幸せだった」そう答えられたならきっと、その人の一生は幸せなものだったと考えてもいいのではないだろうか。幸せだと最期に笑っていられること。少なくともそれは、幸福の証左であると信じていいのではなかろうか。
人と、かつて人だったもの。死という境界線を隔てて並ぶ二つを題材に、「幸せとは何か」を『なないろリンカネーション』は問いかける。
本作は2014年度萌えゲーアワード準大賞受賞作品であり、シルキーズプラスブランドの処女作に当たる。
ちなみにシルキーズプラスは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』、『ドラゴンナイト』、『同級生』シリーズなどで知られる故elfの系列に位置するブランドだ。開発チーム毎にWASABI、A5和牛、DOLCEといった食材名を冠し、それぞれが割と個性の強い作品を輩出する。
WASABIは本作『なないろリンカネーション』を初め、『あけいろ怪奇譚』(2016)、『きまぐれテンプテーション』(2019)といった伝奇、ホラー色の強い作品を制作し、業界内において高い評価を獲得している。 こうしてわざわざレビューをまとめてる時点で分かる話だが、私個人の『なないろリンカネーション』に対する評価はとても高い。
『なないろリンカネーション』は比較的ボリュームが少なく、描かれる物語もとても小規模なものだ。
例えば世界の終わり、例えば勇者と魔王の物語。そんな壮大な設定とは無縁でいて、でもそんなスケールの物語にも決して引けを取らない感傷をプレイヤーに残す。
それは偏に『なないろリンカネーション』の完成度の高さに起因する。
描かれるテーマの一貫性、日常の中に巧みに張り巡らされた物語の根幹に繋がる伏線の数々、そしてそれぞれのルートで提示される「幸せとは何か」という問いへの答え。
どれが正しいということはない。
ただ私にとって、あなたにとって、「ああ、そうか」と胸に落ちるものがあればそれがすべてで、『なないろリンカネーション』の価値はきっとそこにある。
エロゲをプレイしたことが無く、且つ物語性を重視する人に個人的に一番オススメするとしたら、本作『なないろリンカネーション』である。
(余談だが次点は『世界で一番NGな恋』(HERMIT))
何気ないやり取りにさえ幸せを感じる。
遠い世界の話であるようでいて、紐解いてみれば、それらはすべて私たちの日々の中にあることに気付く。
『なないろリンカネーション』は日常感覚に満ちている。
引用元:なないろリンカネーション
どこにでもありそうなありふれた街並みも、手が届きそうなほど身近に感じられるキャラクター達も、染み入るように心に響く幸福な感覚も、描かれる当たり前な日常によってもたらされる。
ありきたりな日々の中にある、私たちが当たり前に消費するすべてが如何に幸福で、如何に脆く、如何に曖昧な認識の上に成り立っているのか、『なないろリンカネーション』を通してプレイヤーは痛感するだろう。
引用元:なないろリンカネーション
幸せって何だろう。
生きるって何だろう。
死ぬって何だろう。
誰もが一度は考えたことのあるそんな疑問を、優しい物語に乗せて丁寧にほどいていく。
『なないろリンカネーション』は、ほんの少し世界を明るくする、小さな灯火のような物語だ。